最近では学生のうちに学ぶことも増えた「キャリアデザイン」ですが、実際に臨床現場に入ると目の前の仕事に集中し、キャリアについて考える時間も得られないのではないでしょうか。また経験を重ねるうちに、思い描く自身のキャリア像が変化したり、見失ってしまうことも少なくありません。そんなときに、一つの標石となるが、先を歩く先輩方ではないでしょうか。本連載は、いまでは多くの看護師のマネジメントに携わる看護部長や、専門性をもって看護にたずさわる方々に、どのような経験を通して、自身のキャリアを切り開いてこられたのか、お話をうかがいます。
看護師としての出会いの積み重ねが人間性を磨き、キャリアアップにつながる
新人時代に出会った患者さんが看護を続ける原動力に
Q)ご経歴と看護師になろうと思ったきっかけを教えてください
私は、横浜市立大学医学部付属高等看護学校第2看護科を1983年に卒業し、横浜市立病院を数カ所経験し、退職前の4年間は横浜市立市民病院の副看護部長として勤務しました。その後、2022年4月から当センターの看護部長を務めています
実は初めから看護師を目指していたのではなく、親から“手に職を”と勧められ看護学校に入学したことがきっかけです。そのため、看護師免許を取得して横浜市立病院に就職しましたが、当時はこの仕事をずっと続けていく覚悟はありませんでした。
そんな自分を変えたのが、新人時代に配属された病棟の患者さんとの出会いです。私は、小児科とリハビリテーション科の混合病棟の配属でしたが、ときどき重症心身障害児の方も入院することがありました。そこでの児やご両親との関わり、またリハビリテーション科で交通外傷後のリハビリテーション入院の方との出会いが、私が看護師としてこの仕事を続けていく大きなきっかけとなりました。
特に印象的だったのは、私が採血一つできなかった時期に、患者さんやご両親の思いを一生懸命聴いたり、ナースコールに対応したり、患者さんの訴えにどう応えたらいいのかと走り回った記憶のなかで、「ありがとう」と言っていただいたことです。その時に、この仕事を続けていこうと思い、現在までつながっています。
重症心身障害児者看護はその方の生活や人生に寄り添い支えること
Q)重症心身障害児者看護と急性期看護では、看護師の関わりとしてどのような違いがあるでしょうか
重症心身障害児者の施設とは、重症心身障害児者の方を対象に、ライフステージに応じた支援を提供する医療型施設で、「生活を中心としたなかに医療があり、終の棲家としての役割も担う」というものです。入所棟(病院でいうところの病棟)では、医師、看護師、生活支援員、薬剤師、管理栄養士、リハビリテーションスタッフが連携を密にして利用者さんにかかわっています。
重症心身障害児者の方は、同じ疾患であっても障害の個別性が高いため、個々の持てる力を引き出し、充実した日常生活が送れるよう生活支援員と両輪で看護・介護を提供しています。また、在宅生活を送っている方や在宅生活を望む方の支援も行っています。当院は訪問看護ステーションも併設していますので、連携もよりスムーズかと思います。
私自身、急性期病院で勤務した経験もありますが、急性期病院では重症度の高い患者さんの治療が優先されます。さまざまな疾患に対して短期間に治療を提供することが必要なため、スピーディな対応が求められることが特徴と言えます。
一方、重症心身障害児者看護では、利用者さんやご家族の人生に目を向ける視点が求められます。その方の生き方や大事にされていることを理解して、点ではなく線で捉え、じっくり向き合ってかかわることが必要だと、これまでの看護経験から感じています。
相手の気持ちを受け入れることが「寄り添う看護」につながる
Q)看護を実践していくうえで、常に心掛けていることはどのようなことでしょうか
私自身が人と接するうえで心掛けていることは、“答えは相手のなかにある”ということです。自分が良いと思って行ったことも、相手がどう受け止めているかは聴いてみないとわかりません。特に、重症心身障害児者の方は、ご自身で意思表示をすることが困難な場合が多いため、わずかな反応でも見逃さず丁寧にキャッチして応えていくことが「寄り添う看護」につながっていくと思っています。
看護でよく使われる「相手に寄り添う」という言葉ですが、実に重要であり、かつ難しいことだと思っています。それは、相手の方に寄り添えたかどうかを決めるのは、自分ではなく“相手”だからです。
もう一つ、私が大切にしているのは、できないことに目を向けるのではなく、できていることにアプローチしていくこと。これは、私の看護観にもなっています。特にスタッフ教育を通し、個々の強みを大切にすることの必要性を改めて実感しています。このことは利用者さんにも通ずるもので、これからも継続していきたいと思っています。
人間性を磨くことがキャリアアップにつながる
Q)松宮看護部長の考えるキャリアアップとはどのようなものでしょうか
キャリアアップでいちばん大切なのは、人間性を磨く努力をし続けることだと思っています。自身の積み上げてきたキャリアを活かすためにも人間性を磨かなければなりませんが、そのためには、リフレクションが重要です。自分自身の無意識を知ること、自分では気づかなかったこだわりや大切にしている価値を知ることで、人との関わりは大きく広がり、コミュニケーション力も格段に上がります。
看護は人を対象としている仕事だけに、私自身も多くの患者さんやご家族、スタッフとの出会いで自分自身を振り返り、学んできました。そして、その学びは現在進行形です。
看護は自分を成長させてくれる素晴らしい仕事
Q)好きな言葉や座右の銘がありましたら教えてください
私の好きな言葉は「七転び八起き」です。これまで、何度も挫折やさまざまな困難に出会いましたが、多くの方に助けられながら、何度転んでも(何かを拾って)立ち上がり、乗り越えてきたと思います。
看護は自分を成長させてくれる素晴らしい仕事です。みなさんも生涯学び続ける姿勢で、看護師の道を歩んでください。努力したことが必ず実践で活かせるのもこの仕事の面白さだと思います。
個々の生活を豊かにするためサポートすることが看護師の役割
Q)これからの福祉領域の看護に、どのようなことが必要だとお考えでしょうか
当院のような福祉領域の看護となると、まだ看護学生さんにもあまり知られていないと感じています。新卒で入職するなら、急性期で学びたいという印象を持っている学生の方は多いと思いますが、個々が持っている強みや好きな領域を大切にして、就職先を選んでほしいと思います。
看護は病院だけでなく、在宅に関連した領域も多岐に渡ります。患者さんとじっくり向きあう看護を求める方には、当院のような看護は向いているのではないでしょうか。
私自身も重症心身障害児者の方たちと関わるなかで、在宅で生活することを支えるさまざまな福祉・医療の取り組みの重要性を改めて感じています。また、入所している利用者さんには、日々の生活を豊かにするために心身を整えていただき、その人らしい生活が送れるようケアしていくことが私たち看護師の役割だと思っています。
“気持ちをいかに切り替えるか” を大切に休日を過ごす
休日は、外出するよりも家で家族と過ごすなど、のんびりすることが好きです。部屋の模様替えをして気持ちをリセットしたり、ペットと散歩に行くこともあります。家では犬と猫を飼っているので、近くの公園に出掛けることが楽しみの一つで、私にとっての癒しの時間です。仕事での悩みや課題は、家に持ち帰って考えていても解決できないので、“気持ちをいかに切り替えるか”が大切だと思っています。仕事を忘れるくらい没頭できる時間は貴重です 。
|病院情報|看護師として成長するための当院の教育の特徴
基本的な看護技術の習得と重症心身障害児者看護の専門性を高められる環境
当院の教育体制はキャリアラダーに基づき、経験に応じた院内教育を行っています。重症心身障害児者施設では、生活が中心といっても医療依存度の高い方が多いため、呼吸や循環、代謝などの全身管理が必要で、専門的な知識と技術が求められます。
新卒採用者は、集合研修と各棟での研修を実施し、キャリアの異なる中途採用者に対しては、個人のスキルに合わせた教育の場を提供しています。また、日本重症心身障害福祉協会認定の重症心身障害看護師の育成も行っています。今後はそうしたスペシャリストを中心に、当センターならではの育成プログラムを構築させたいと思っています。
さらに在宅看護として訪問看護など、地域と連携した看護も実践しているので、看護師としてさまざまな経験を積むことができます。
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