最近では学生のうちに学ぶことも増えた「キャリアデザイン」ですが、実際に臨床現場に入ると目の前の仕事に集中し、キャリアについて考える時間も得られないのではないでしょうか。また経験を重ねるうちに、思い描く自身のキャリア像が変化したり、見失ってしまうことも少なくありません。そんなときに、一つの標石となるが、先を歩く先輩方ではないでしょうか。本連載は、いまでは多くの看護師のマネジメントに携わる看護部長や、専門性をもって看護にたずさわる方々に、どのような経験を通して、自身のキャリアを切り開いてこられたのか、お話をうかがいます。
常に目標をもち学びを還元することがキャリアアップにつながる
人工呼吸器の患者さんと深くかかわりたいという思いからICU勤務を希望
Q)ご自身のこれまでの看護歴を教えてください
2011年に上尾看護専門学校を卒業し、千葉県にある総合病院の内科の急性期病棟、一般内科病棟で4年間勤務しました。内科病棟では、循環器、呼吸器、腎臓、泌尿器、緩和ケアなど、幅広い診療科を経験しました。
さまざまな診療科に対する知識や技術は身につきましたが、同時に、すべての患者さんに手厚い看護を提供できないもどかしさも抱えていました。急性期の重症患者さんや人工呼吸器の患者さんを受け持つなかで、1対1で向き合いたいという思いからICUでの勤務を希望し、当院に転職しました。
入職当初はICUという環境で、学ばなくてはならないことが多くたいへんでしたが、集中ケア認定看護師の先輩から、術後の全身管理など新たに経験するケアについて学べたことでICUでの看護が楽しくなり、成長につながったと感じています。勉強法のアドバイスや臨床での疑問を一つずつ解決に導いてもらえたことも大きかったと思います。
さらに当院のICUでは日本集中治療医学会のICUラダーを基に、独自のICUラダーを作成しています。個々のキャリアに合わせた教育プログラムがあることも安心してケアを行えたと感じています。
習得した知識をさらに活かすために特定看護師の道へ
Q)資格取得後の活動と特定看護師を目指したきっかけは何でしょうか
臨床での経験を積むなかで、人工呼吸器の知識をさらに深めたいという思いから、2018年に呼吸器療法認定士の資格を取得。RST(呼吸サポートチーム)で活動を行っていました。 その一方で資格を取得して、身についた知識だけではまだまだ足りないことに気づかされました。習得した知識・技術が現場で活かせていないという壁にぶつかり、さらに追究したいという思いに至ったのです。
そして、辿りついたのが特定看護師の道でした。病院のサポートや所属長の後押しもあり、2021年に呼吸器関連と動脈血液ガス分析関連の看護師特定行為研修を修了。当院では初めての特定看護師としての第一歩をスタートさせました。
特定行為の実践においては、自部署での人工呼吸器の管理、早期離脱のための設定調整、動脈カテーテル管理などを行っています。他部署での活動は、脳神経外科病棟で気管切開のチューブ交換、外来患者さんの動脈からの採血など、依頼のある部署に出向き、横断的に活動しています。
医師の指示(手順書)を基に、患者さんの状態を見極め、迅速に治療や処置を行えることは、患者さんの早期回復と病棟看護師の医師を待つストレス軽減につながっています。
現在は、呼吸器、褥瘡、手術室の特定看護師も増え、週1回専任チームで活動しています。また各病棟をラウンドし、人工呼吸器装着の患者さんの早期離脱に向けて介入し、担当看護師、理学療法士、管理栄養士とディスカッションを行い、担当主治医に報告しています。
臨床での活動のほか3カ月に1回、勉強会の講師としての役割も担い、スタッフの育成にも取り組んでいます。人工呼吸器だけでなく、呼吸器管理全般の知識を身につけられる場を設け、個々のスキルアップに貢献しています。依頼があれば部署に出向いての勉強会も開催しており、徐々に活動も浸透しています。
スペシャリストとしての活動と管理職の業務を行う日々
Q)主任としての役割や職場環境はいかがでしょうか
現在ICUの主任として2年目を迎え、管理業務も増えてきました。部署内の問題や課題を抽出し、目標達成に向けての取り組みを浸透させるため、情報共有を行っています。
また、管理者として必要な基本的な知識・技術・態度を習得する目的で、認定看護管理者教育課程「ファーストレベル」を受講しました。 どこの病院でも抱えている人員不足、教育体制などの問題を改めて認識し、スタッフを大事にできる管理者になりたいと実感しました。
管理者となることでスタッフとの壁が生まれることを防ぐため、上司とスタッフの調整役としての役目も担っています。声掛けを行い、何でも話せる職場環境を整えることでスタッフ間の仲もよく、チームワークのよい現場となっています。今後もスタッフが気持ちよく働ける環境づくりに務めていきます。
ひとりの患者さんに時間をかけてかかわれることがICU看護の魅力
Q)ICUにおける看護の特徴や魅力についてお聞かせください
ICUは、重症度が高く緊急で入室する患者さんが多いことが特徴です。患者さん本人だけでなくご家族も緊張している場合が大半を占めます。高難度の手術後に入室される患者さんに対しては、患者さんの状態把握と管理、急変を察知し対応できるスキルも求められます。また、医療機器に関する知識や技術も必要です。
入室される方は意識のない方や状態の悪い患者さんが大半を占めますが、私たちが介入することで、人工呼吸器の早期離脱につながったり、筋力がなくなった方にリハビリを行うことで徐々に回復していく過程を見られる場所でもあります。患者さんにじっくりかかわり、手厚い看護を提供できること、ケアひとつでよくなっていく過程を見られることがICU看護の魅力だと感じています。
コロナ禍では面会も禁止されていましたが、ようやくご家族の面会も再開でき、コミュニケーションを取れるようになったことで、家族ケアの大切さも改めて実感しています。ご家族とかかわれることで患者さんの背景も理解でき、今まで以上に患者さんが何を求めているかもわかるようになりました。ICUで患者さんとご家族がどう過ごせるかを大切に、ご家族の思いもくみ取り、話を聞くことを心掛けています。
「誠実」をベースに家族が安心して受けられる医療であるかを心掛ける
Q)看護を実践するなかで心掛けていることや看護観について教えてください
幼少期に祖母が入院したとき、担当の看護師さんが家族に対しても声掛けや体調を気遣ってくれたことがいまでも記憶に残っています。そのときの看護師さんが憧れの存在となり、看護師を目指すきっかけになりました。
こうした体験があったため、「自分の家族が受けたい医療であるか」が看護観となりました。看護を実践するなかで、技術的にも倫理的にも安心して任せられる医療であることを大切にしています。
そしてこの根底にあるのが、好きな言葉でもある「誠実」です。患者さんやご家族はもちろん、看護スタッフや多職種など、誰に対しても誠実に向き合うことが看護師にとって大事なことだと常に心に刻んでいます。
興味のあることから取り組むことが、キャリアアップへの第一歩
Q)ご自身が考えるキャリアアップについてお聞かせください
私自身は性格的にも何となく過ごすことが好きではなく、毎年目標を立ててスタートしています。振り返るとそれが結果としてキャリアアップにつながっていると思います。 そして目標を達成するだけでなく、実践に活かすことが必要です。自分の学びを患者さんに還元していくことが、本当の意味でのキャリアアップだと思っています。
キャリアアップしなければと意識し過ぎず、身近にある小さなことから取り組んでいくことをお勧めします。興味のある研修に参加するなど、第一歩を踏み出すと意外にも自分でもできることがわかるので、勇気をもって踏み出してください。初めは自信がなくても努力次第で変わると思います。そして多くのことに関心をもち、疑問に思ったことをそのままにせず、解決に結びつけることが大事です。
最近は1年目でも認定看護師になりたいという目標をもった人もいますが、キャリアアップは、学生時代にはイメージしにくい人が多いと思います。自分のなかで、さまざまなことにチャレンジする気持ちと頑張ろうという気持ちがあれば、そのレールは続いていくので、是非目標に向かって頑張ってください。
私自身は今後、スペシャリストとしての活動を続けながら、マネジメントを行っていくか、まだ結論は出ていませんが、さらに経験を積み成長していきたいと考えています。
友人・同僚とも出かけ、睡眠もしっかり取ってリフレッシュ
休みの日は家でゆっくり過ごしています。季節のいい時期には、近くの大宮公園に出かけ、自然を満喫しています。皆で過ごすことが好きなので、プライベートでは友人や同僚と食事やお酒を飲みに出かけることが多いですね。リフレッシュ法は、体を休め睡眠をしっかり取ることです。そしておいしい食事やお酒も、リラックスできる時間です。
|病院情報|看護師として成長するための当院の教育の特徴
キャリアアップ支援や学びを深めるためのサポート体制も充実しています
当院ではクリニカルラダー制度に沿って、看護師としての知識・技術を身につけられる体制が整っています。新卒者はもちろん、中途入職者に対しても過去の経験に応じたラダーレベルを決定し、プログラムに沿って学べます。
外部研修や学会参加においては、受講料のサポートや、勤務扱いで受講できる場合もあり、資格取得へのサポート体制もあります。
このほかにも院内では、さまざまな勉強会を開催し、学ぶ環境が整っています。病棟ではペアワークも実施しているので、新規入職者や他病棟からの異動者も、不安なく勤務できます。
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